「起きなさーい。遅刻するよー!」
「んー、起きてるよ……。今、そっち行くから。」
W.Kはスリッパを足に引っ掛け、朝食が並べられた食卓へと向かった。
椅子に座って納豆をかき混ぜながらテレビのニュースをぼんやりと眺めていると、テレビからキャスターの声が聞こえてきた。
『昨夜未明、K県Y市の公園で男子高校生の変死体が発見されました。
被害者は、所持品より県立O高等学校の2年生、N.Tさん(17歳)と確認されています。
県警によると、被害者は全身を鈍器のようなもので数十回殴打されており、
通行人に発見された時は既に死亡していたとのことです。
また、被害者は昨日のアルバイトには通常通り出勤しており、帰宅途中で被害に遭ったものとみられています。
………次のニュースです——。』
「な、何だって!? T君が殺された!?」
Wは、思わず立ち上がった。Wの母が驚いて食卓にやってくる。
「ど、どうしたの?いきなり大きな声なんて出して。」
「お、同じクラスのT君が殺されたって!!」
「えっ、本当なの!?」
「うん、今ニュースでやってた。」
「そう…。でも、とりあえず学校には行きなさい。道には気を付けてね。」
「うん、じゃあ行ってきます。」
食事を終えたWは、普段通りに家を出て学校へと向かった。
学校は、予想以上に騒然としていた。警察関係者のみならず、既にマスコミ関係者も集まってきているようだ。
取材陣の一人がW.Kの姿に気づいて近付いてきた。間髪を入れず質問を投げつけてくる。
「毎朝テレビの者です。ねぇ、きみは何年生? N.T君のことは知ってる?」
「さあ?」
そう言ってはぐらかすと、Wはさっさと教室へと入った。
教室は、既に多くの生徒が揃っていたが、外とはうって変わってしんとしていた。
そこには、いつものメンバーである3人組、T.KとY.YとY.Aの姿もあった。Wに気づいたY.Aが話し掛けてきた。
「おはよう。今朝のニュースは見た?」
「うん、さっき取材の人がいた。」
「僕は職員室の前を通ったら、F先生にマスコミに何を聞かれても答えちゃ駄目だって、釘を刺されたよ。」
事件のことについて暫く会話をしていると、全校放送が入った。
『おはようございます。これより、緊急集会を開きますので、生徒は至急体育館に集合してください。』
集会では、N.T君の死が告げられ、全員で一分間の黙祷を捧げた。その後、担任や校長の話があり、集会はすぐに解散となった。
授業は午前中で打ち切りとなり、高校としては異例の集団下校が行われた。
悪ふざけで一人の男子生徒が集団から姿を消したが、その事に気付く者は誰もおらず、生徒は速やかにそれぞれの自宅へと戻った。
午後は担任から自宅学習が命じられていたため、Y.Yも自室で勉強をしていた。下から母の呼ぶ声がする。
「あの事件の犯人捕まったって~。」
「えっ、ホントに!?」
Y.Yは階段を駆け降りて来た。
「ほら、ちょうど今ニュースでやってる。」
二人はテレビに注目した。
『昨夜、K県内で男子高校生が殺害された事件で、K県警は現場近くに住む40代の男性教師を強盗殺人の容疑で逮捕しました。
逮捕されたのはJ.T容疑者で、容疑については否認していますが、自宅のアパートから被害者の少年のものとみられる血液の付いたバットや、
被害者の財布なども発見されています。では、T警察署前より、清和さんお願いします——』
『プチッ』
Y.Yはテレビのスイッチを切り、心の中で呟いた。
「Tくん、犯人は捕まったよ——」
すると、防災無線から5時を告げるチャイムの音色が聞こえてきた。
いつもと変わらぬ音色であったが、それを聞いたY.Yは、この事件がまだ終わりではないような気がした。
そう、このベルはこれから始まる血で血を洗う連続殺人の開幕の合図であった……。